「体育館に一人でも、続けたかった」
カバディ

「体育館に一人でも、続けたかった」

「栃木でカバディを続けたい」 8年間貫いてきた想い


「迷っている時間が無駄なので、まず一回来てください」

そう笑いながら話してくれたのは、栃木県でカバディチームを率いる渡辺未来さん。


カバディ歴8年。現在は栃木県内唯一のチームでキャプテンを務めながら、地域での普及活動にも力を入れている。

競技人口が少ないカバディ界。

チーム作りも、競技を続けることも、決して簡単ではなかった。


それでも渡辺さんが、8年間カバディを続けてきた理由とは何なのか。


カバディという競技の魅力と、その裏側にあるリアルな葛藤を聞いた。


カバディとの出会い


メチャスポ編集部(以下、メチャ):まずは自己紹介をお願いします。


渡辺未来さん(以下、渡辺):栃木県でカバディチームをやっております、渡辺未来と申します。栃木には現在チームが1つしかないので、実質的に「栃木のカバディ窓口」みたいな感じになっていますね。カバディ関連のお話があると、こちらに来ることが多いです。


メチャ:カバディ自体は何年くらいやられているんですか?


渡辺:2018年に始めたので、今8年目ですね。チームとして活動し始めたのは2020年からなので、チーム運営は6年ほどになります。


メチャ:8年って、カバディ界では長い方なんですか?


渡辺:かなり長い方だと思います。もちろん20年、30年やられている方もいますが、そういう方は引退されていることも多いので。現役選手としては、もうベテラン側ですね。

競技人口が少ないカバディ界。

8年というキャリアでも、十分“長い”部類に入る。

では、そもそも渡辺さんはどうやってカバディに出会ったのだろうか。


文化系だった自分が、毎日走るようになった


メチャ:カバディを始めたきっかけって何だったんですか?


渡辺:『灼熱カバディ』ですね。あの漫画を読んで「面白い!」と思って、自分でもやってみようと思いました。

そもそも、カバディって知るきっかけ自体がほとんどないんですよ。だから、あの作品の影響は本当に大きいです。

体感ですけど、今カバディを始める若い人たちの8割くらいは『灼熱カバディ』きっかけなんじゃないかなと思います。


メチャ:やっぱりそんなに影響があるんですね。


渡辺:はい。実際のカバディ選手が監修に入っていたりして、競技へのリスペクトを感じる作品なんです。本当にありがたい存在ですね。

『灼熱カバディ』は、2015年から連載されたカバディ漫画。

競技そのものの知名度向上に大きく貢献した作品として、現役選手たちからも高く支持されている。

だが、漫画を読むことと、実際に競技をすることは全く別物だった。


メチャ:実際にやってみた時の印象ってどうでした?


渡辺:思った以上に難しかったですね。

漫画の中ではかっこいい技がたくさん出てきますけど、実際は自分の思った通りに身体が動かない。フィジカルも体力も必要ですし、やればやるほど「もっと技術が必要だな」って感じました。

でも、その難しさが逆に面白かったんです。


メチャ:ちなみに、それまでは他のスポーツをやっていたんですか?


渡辺:いや、全然です。むしろ文化系でした。

音楽が好きで、昔バンドをやっていたくらいで、運動経験はほとんどなくて。

でもカバディを始めてから、毎日走ったり、ジムに通ったり、生活が一気に変わりましたね。


野球漫画やサッカー漫画も読んでいた。

それでも、実際に競技を始めたのはカバディだけだった。


「自分でも不思議です」と笑う渡辺さん。


だが、その“偶然の出会い”が、人生を大きく変えていった。


一瞬の判断で勝負が決まる緊張感


メチャ:実際にプレーしている渡辺さんだからこそ感じる、カバディの魅力って何ですか?


渡辺:一番は、“一瞬の判断で勝負が決まる緊張感”ですね。

カバディって、本当に少し身体が触れただけでアウトになる世界なんです。だから、相手がコートに入ってきた瞬間から、一挙手一投足をずっと見続ける。

少しでも気を抜いたらやられるので、そのスリルがすごく面白いんですよ。


メチャ:緊張感そのものを楽しんでいる感じなんですね。


渡辺:そうですね。しかも、カバディって個人技だけじゃなくて、チーム連携もすごく重要なんです。個人プレーの魅力とチームスポーツの魅力、両方が詰まっている競技だと思っています。


体と体がぶつかり合う迫力を見てほしい


メチャ:カバディを知らない人に、“ここを見たら面白い”ってポイントはありますか?


渡辺:まず、ボールを使わないスポーツって珍しいと思うんですよね。

だからこそ、選手同士の身体のぶつかり合いとか、タックルの迫力とか、“人間そのもの”の勝負が見えるスポーツなんです。

相手を止める守備、そこから逃げ切るレイダー。あの攻防の激しさは、ぜひ見てほしいですね。

メチャ:実際に会場で見ると、かなり迫力ありますよね。


渡辺:はい。あと、会場だと選手の声も聞こえるんです。

レイダーが「カバディ、カバディ…」って唱え続ける“キャント”だったり、守備同士の声掛けだったり。ああいう空気感は、現地ならではだと思います。


体育館に行ったら、自分一人だった


華やかなプレーの裏で、渡辺さんは競技の厳しい現実も語ってくれた。


メチャ:カバディを続ける中で、リアルな苦労ってどんなところでしたか?


渡辺:やっぱり、競技人口の少なさですね。栃木は1チームしかありませんし、各県に1チームあればいい方という状況です。

名前だけは知られていても、「実際にやる人」は本当に少ない。そこは今も大きな課題だと思っています。

『灼熱カバディ』の影響で競技人口は増えた。

しかし、連載終了後は体験参加者も減少傾向にあるという。


だからこそ、今いる選手たちが競技を広め続けなければならない。

その思いは、渡辺さん自身の行動にも表れていた。


こんなに動くの、自分しかいないと思った


メチャ:2020年にチームを立ち上げた時のお話も聞かせてもらえますか?


渡辺:2019年から人を集め始めたんですが、最初は本当に3〜4人しか集まらなくて。

体育館を予約しても、自分一人だけって日もありました。


メチャ:えぇ……。


渡辺:正直、「もう諦めて他のチームに入ろうかな」って思ったこともありました。

でも、栃木でここまで動く人間って、多分自分しかいないだろうなって思ったんです。

だから、「なんとか栃木にカバディチームを作りたい」って気持ちだけで続けていました。

その後、茨城や東京のチームへ通い、技術を学び、それを栃木へ持ち帰る日々。

時には東京まで迎えに行き、選手を栃木へ連れてきて練習したこともあったという。


渡辺:自分でも「ちょっとバカだな」って思いますけど(笑)。

でも、それくらいやらないと、チームって作れなかったんですよね。


3年間勝てなかったチームが、初めて勝った日


現在、チームには約15人が在籍。

7対7の試合ができるまでになった。

だが、そこに至るまでの道のりは長かった。


渡辺:チームとして初勝利するまで、3年かかりました。最初は1回戦も勝てなくて、ずっと負け続けていましたね。


メチャ:初勝利の時はどうでした?


渡辺:めちゃくちゃ嬉しかったです。それまで“勝った感覚”を知らなかったので、「あ、これが勝つってことなんだ」って、初めて実感しました。


しかも、その相手は以前惜しくも敗れていたチーム。

“あと一歩”届かなかった相手に、ついにリベンジを果たした瞬間だった。


渡辺:本当に、チーム単体で勝ったのはそれが初めてだったので。今でも一番印象に残っています。


後輩が先に代表候補になっていく悔しさ


もちろん、苦しかったのはチーム運営だけではない。


メチャ:「辞めたい」と思ったことはありましたか?


渡辺:ありましたね。やっぱり人が集まらなかった時期は、本当に苦しかったです。

でも、もう1つは、自分より後に始めた後輩たちが、どんどん代表候補に選ばれていく時ですね。


メチャ:あぁ……。


渡辺:プレイヤーなら、みんな代表を目指していると思うんです。

その中で、自分より歴の浅い後輩たちが強化指定選手になっていくのを見ると、やっぱり悔しかったですね。


競技を続ければ続けるほど、理想と現実の差にも直面する。

それでも、渡辺さんはカバディを辞めなかった。


結局、カバディが好きなんです


メチャ:それでも続けてこられた、一番の理由って何だったんですか?


渡辺:結局、“カバディが好きだから”ですね。

あと、自分は生まれも育ちも栃木なので、「栃木のカバディチームをちゃんと作りたい」っていう気持ちがずっとありました。

この好きな競技を、栃木で続けていきたかったんです。

少しずつ仲間が増えたことも、大きな支えになった。

「一緒に続けたい」と言ってくれる仲間たち。

その存在が、何度も渡辺さんを前へ進ませた。


スポーツを見る目が変わった


カバディは、渡辺さん自身の価値観も変えた。


渡辺:今はスポーツ全般が好きになりましたね。

以前はただ見ていた試合も、「この選手は何を考えて動いているんだろう」とか、「負けたチームは今どんな気持ちなんだろう」とか、そういう見方をするようになりました。自分がプレイヤーになったことで、スポーツに対する感じ方が変わったと思います。


カバディを、野球やサッカーみたいな競技にしたい


メチャ:これからの目標を教えてください。


渡辺:チームとしては、全日本大会ベスト3入りですね。

あと、もっと栃木の人たちにカバディを知ってもらいたいです。最近は地域イベントで体験会もやっています。


メチャ:カバディという競技自体には、どんな未来を願っていますか?


渡辺:やっぱり、野球やサッカーみたいに、当たり前に知られているスポーツになってほしいです。

今って、「カバディって何?」とか、「カバディカバディって言うやつでしょ?」くらいの認識が多いので。

もっと普通に知られて、普通に選ばれるスポーツになってほしいですね。


「迷ってる時間が無駄なので、まず来てください」


メチャ:最後に、これからカバディを始めようか迷っている人へメッセージをお願いします。


渡辺:迷っている時間が無駄なので、まず一回来てください(笑)。

見たり聞いたりするだけじゃ分からない競技なので、まずは体験してほしいです。

どこのチームも、体験参加は本当に大歓迎だと思います。


一瞬で、人生が変わることもある

「一瞬の駆け引きで、生死を分ける緊張感」


渡辺さんは、カバディの魅力をそう表現した。


だが、話を聞いていると、その“一瞬”はコートの中だけではないようにも感じる。


漫画を手に取った瞬間。

一人きりの体育館で、それでも続けようと決めた瞬間。

3年間勝てなかったチームが、初めて勝った瞬間。


その積み重ねが、今の渡辺未来というプレイヤーを作っている。


一人だった体育館から始まった挑戦。

その先にどんな未来が待っているのか、これからが楽しみだ。


栃木ガーナレンズ インスタグラム:https://www.instagram.com/kabaddi_tochigi/